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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)35号 判決

京都府船井郡八木町字永所小字前所五番地

控訴人

中川廣光

右訴訟代理人弁護士

小川達雄

吉田隆行

村松いづみ

佐藤克昭

籠橋隆明

高山利夫

小笠原伸児

京都府船井郡園部町小山東町溝辺二一の二

被控訴人

園部税務署長 中川靖雄

右指定代理人

阿多麻子

石井洋一

岩城美津男

山内悟司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和六二年七月八日付でした控訴人の昭和五九年及び昭和六〇年分の所得税更正処分(ただし、各年分とも異議決定により一部取消後のもの)のうち、昭和五九年分の総所得金額一〇九万四七〇八円を、昭和六〇年分の総所得金額二四二万〇二三四円をそれぞれ超える部分及びこれに対する過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、原判決一二頁一〇行目の「〈1〉ないし〈5〉」を「(1)ないし(5)」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決二頁一〇行目冒頭から二一頁七行目末尾まで)に記載のとおりであるが、原審が控訴人の請求をすべて棄却したので、控訴人から控訴の申立をしたものである。

第三争点に対する判断

一  調査手続の適法性(争点1)について

当裁判所も本件税務調査の手続に違法があったとは認められないと判断するものであって、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決の理由説示(二一頁九行目冒頭から二四頁二行目末尾まで)のとおりであるからこれを引用する。

原判決二三頁一行目冒頭から二四頁二行目末尾までを次のとおり改める。

「また、所得税法二三四条一項三号は、納税義務者以外のこれと一定の関係を有する者に対する質問・検査(いわゆる反面調査)権を税務職員に認めているが、その調査の順序や方法については特に定められていないので、税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきであって、納税義務者の同意がなければできないとか、納税義務者に対する質問・検査が不可能な場合でなければ許されないというものではない。したがって、反面調査について控訴人の同意を得ておらず、また、それが控訴人に対する直接の調査が終わっていない段階でなされたものであったとしても、そのために本件調査の手続が違法となるものではない。更に、税務職員が調査の最初から納税義務者の取引先を的確に認識することは困難であるから、反面調査が客観的には前記法条一項三号の権利義務の主体でない真の取引先以外の者に及んだ場合であっても、それらの者が右権利義務の主体であると認められるような外観を有する限り、その調査は違法となるものではないというべきである。

なお、証拠(乙六、勝山隆弘の証言)によれば、税務職員勝山が昭和六二年七月六日、控訴人宅に調査に赴いた際、民主商工会の内藤と称する人物が同席していたので、控訴人に対し同人に退席してもらうよう求めたところ、控訴人がこれを拒否したため、調査を実施しないで引き揚げたことが認められるが、税務調査について納税義務者の第三者の立会権を保障する法律上の根拠は存在しないから、税務職員の右の措置が違法であるということもできない。」

二  推計の必要性(争点2)について

1  証拠(甲一、乙六、七の一、二、勝山隆弘の証言、控訴人の原審における尋問の結果(ただし一部))によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 控訴人が被控訴人に提出した本件係争各年分の所得税の確定申告書には、いずれも所得金額欄に所得金額が記載されているのみで、その計算の基礎となる収入金額及び必要経費の記載が全くなかった。

(二) そこで、右所得税の調査を担当することとなった税務職員勝山は、昭和六一年一〇月一四日に初めて控訴人の事務所に赴き、控訴人に対し身分を明かしたうえ所得税の調査に来た旨を伝えるとともに、帳簿等の書類の提示を求めたが、控訴人は、今日は仕事が忙しいので次の機会にしてもらいたい、いずれ当方より連絡する旨答えるのみで調査に応じようとしなかった。

(三) ところが、言に反して控訴人から一向に連絡がなかったので、やむなく勝山は、同年一一月一七日に再び控訴人の事務所に赴き、控訴人に対し前同様帳簿等の書類の提示を求め、調査に協力するよう要請したが、控訴人は、今日も忙しいので、当方から連絡するまで待ってほしいというのみで、この度も調査に応じようとしなかった。そのため勝山は、独自に調査を進めるよりほかない旨控訴人に伝えて退去した。

(四) そこで、税務当局側は、同月、控訴人の取引先である星電精工に対し控訴人との取引金額及び決済金額の内訳等についていわゆる反面調査を実施したが、その後も勝山は、同年一二月三日、同月一二日、昭和六二年一月一九日、同年七月一日、同月六日の五回にわたって控訴人の事業所に赴き繰り返し調査への協力を要請した。しかし、結局、控訴人の協力は得られないままで終わった。

2  右の認定事実によれば、控訴人としては本件調査に対し非協力的で誠実性に欠ける態度に終始したものであり、被控訴人において社会通念上要求される程度の努力をしても、控訴人の本件係争各年分の各所得を実額により認定することはできなかったものというよりほかはないから、推計によりこれを算出する必要性があったものと認めるのが相当である。

三  推計の合理性(争点3)について

当裁判所も、被控訴人のした推計には合理性があるものと判断するが、その理由は、以下のとおり付加・訂正するほかは原判決の「事実及び理由」の「第三 争点の判断」の「三 本件各処分における推計の合理性(争点3)」(原判決二五頁三行目冒頭から三六頁九行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二七頁六行目の「7の1ないし7」を「7の1ないし6」と改める。

2  同二九頁六行目と七行目との間に次のとおり加える。

「 また、抽出同業者のうちA・BとC・Dとの間に所得率の点でかなりの差があることは別紙5のとおりであるから、右各社のソレノイドの売上高の総売上高に対する比率が原告主張のとおりC・Dの方がA・Bより二倍近く重いものとすれば、右所得率の差はソレノイドの受注製造の利益率の低さによるものであるかのようにみえないわけではないが、右別紙5によれば、A、B、C、D各社の所得率の差は一般経費率の差によってもたらされているものであり、原価率の点ではこの四社間にはわずかの差しかないことが明らかであるから、この点からも、ソレノイドの売上高の総売上高に占める割合の違いから、原告と抽出同業者との業種、業態の類似性を否定することはできないというべきである。」

3  同二九頁一一行目の「推計課税は、」から三〇頁九行目の「有する。」までを次のとおり改める。

「推計課税は、納税義務者の帳簿書類の不備や所得調査に対する非協力による帳簿書類の不提示等のため、直接資料によりその所得金額を実額で把握することができない場合に、間接資料によって推計した近似値を真実の所得金額として課税するものであるから、本件のように一定の合理的基準に基づいて抽出した一定数の同業者の所得率の平均値を用いて所得金額を推計する場合においては、納税義務者と抽出同業者とが業種、業態において酷似していることまでは必要ではなく、合理的な推計を可能ならしめる程度の類似性が認められれば足りるものというべきところ、原告と抽出同業者とが取扱商品、立地条件、事業規模等において近似していることは前記選定基準からも肯認することができ、また、右同業者間においても原価率においてわずかの偏差しか存在しないことは前記のとおりであるから、原告と右抽出同業者との間には合理的な推計を可能ならしめる程度の類似性が認められるというべきであって、ソレノイドの売上高の総売上高に対する比率の点は右類似性を否定するほどの要因ではないとみるのが相当である。」

四  実額反証(争点4)について

当裁判所も、本件全証拠によっても控訴人の主張する実額が真実の所得金額に合致することが合理的疑いを入れない程度に立証されているものとは認められないと判断するが、その理由は原判決五二頁一〇行目の「甲一一九ないし一五九」を「甲一一九ないし一三四、一四五ないし一五九」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点の判断」の「四 実額反証(争点4)」(原判決三六頁一〇行目冒頭から五五頁五行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 孕石孟則 裁判官 小川浩)

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